リモートワークとは、オフィスから離れた場所(リモート)で、勤務するスタイルのこと。
近年「働き方改革」という言葉があちこちで叫ばれるなか、総務省も推進している「テレワーク」(=リモートワーク)を、アール株式会社は2018年11月より導入しました。
リモートワークというと、なんとなく都心部の大企業のみが実践しているイメージがあるかと思うのですが、なぜローカル企業である弊社が、リモートワークを導入したのか?
導入に至った動機や体制づくりにまつわるエピソード、さらにリモートワークに秘めた、働くことに対しての「想い」をお話したいと思います。
アール株式会社 代表取締役社長 衞藤秀峰(以下、衞藤)
インタビュアー:フリーライター 田口麻央(以下、田口)
目次
休みもなく、残業ばかりだった会社員時代から働き方を見直したかった
田口 > アールさんでは、新年度の18期を迎える11月から、試験的に全スタッフがリモートワークを利用できるようになったということですが、どのようなきっかけから取り組むことになったんでしょうか。全国的にも、徐々にこのような取り組みが増えつつあるんですよね?
衞藤 > そうですね。意識が向いている主な理由としては働き方改革や、個々の働き方の多様化、また東京オリンピックを控えていることもあり、特に関東の方では交通渋滞の問題を解消するためにも、国がリモートワークを推奨しています。
大分ではまだこのような働き方は珍しいと思いますが、弊社がなぜリモートワークに取り組むに至ったかについては、今から約20年前の話にさかのぼります。
アールを立ち上げる前、ぼくがまだ建設業の会社員だったときの話です。当時の建設業は、ものすごく残業が多く、毎日休みがないという環境下で働いていました。上司や同僚も、そんなハードな労働を美徳としていた時代です。
田口 > 時代的にも、まだそのような働き方が称賛されていた頃ですよね。
衞藤 > ですが、ぼくは当時からとにかくそうした働き方がイヤでイヤで、周りの話にも全然共感できなかったんですよ。
当時から自分でいつか会社を起こしたい、という思いはあったんですが、その時はこういう働き方は絶対にしたくないなぁ、ということをずっと考えていました。
思い描いていた理想の働き方と、現実とのギャップ
田口 > まだ会社を立ち上げる前から、すでに働き方の対する思いはあったんですね。
衞藤 > そうなんです。しかし、とは言いつつも、いざ自分の会社を作って会社経営を行っていくと、理想どおりの働き方はなかなできなかったんですよね。
実は弊社も、以前はものすごく残業が多い会社だったんです。案件によっては徹夜で泊まり込みで作業をしたり、寝ずに朝までなんて当たり前でした。会社立ち上げ以前に思い描いていた自分の理想の働き方とはかけ離れていましたね。
田口 > そうなんですか?イメージ的に創業時からずっとこんなスッキリとした勤務体系なんだと思ってました。そういう時期があったんですね。
衞藤 > ありました、ありました。もちろんそうした働き方でもやり遂げた後の達成感は大きかったんですよ。でも「これがずっと続くと誰か病気になるんじゃないか?」とか、そうした不安は常についてまわっていましたね。
田口 > やりきったな、と思うと同時に、このまま続けていたら…という不安があり、そこからの転換があったんですね。
衞藤 > このギャップってどうやって埋まるのかな?ということはずっと考えていたんですが、さすがにこのままの状況が続くとマズい、この現状をなんとかしなくては、と真剣に考え始め、働き方についてスタッフと一緒に考え直すことになったんです。まずは「普通に休みを取ろう」と。
ちゃんと休みを取るために考え始めた会社の未来
田口 > 非常に根本的なところから見直したんですね。
衞藤 > そうです。ごく基本的なことですが、「休みをちゃんと取ろう」と。そのためには、業務内容を一度、1から見直さなくてはいけませんでした。
まずは超過勤務の原因になっている業務を減らすことにしました。その代わりに、「どうやったら他の売り上げで補填できるか」といったことなど、会社の未来に向けて、いよいよ本質的な話を具体的にスタッフと交わし始めた時期で、そこから自分の中でも日常業務や働き方の改善に向けて動きだしたと記憶しています。
「休みをきちんと取ろう」とした頃から、社労士さんにも相談に乗ってもらうようになりました。ただ、ぼくは思いを伝えるだけにして話には入らず、スタッフと社労士さんだけで年間の休日について話し合ってもらいました。
田口 > え、社長抜きでですか?
衞藤 > 僕が決めたところで、結局はスタッフ自身のことなので。「どうせ社長が決めたことじゃん」ではなくて、自分たちのこととして考えてもらいたかったんです。
田口 > ほかの企業さんでは、そんなことやっていないですよね。
衞藤 > 社労士さんからしたら「ありえないこと」だと言われました(笑)
田口 > どうして、そのようにしたんですか?
衞藤 >「労働基準法」って労働者を守るものではあるんですが、「経営者」対「労働者」みたいになりがちなんですよね。それがイヤだったんです。
社会的には雇用者と雇用主になるんだけど、それすらも覆していきたいなと。やっぱり、会社全体でチームという意識が強かったんですよね。
それであえて社労士さんに入ってもらって「スタッフと一緒にルールを決めてほしい」とお願いしました。
休みを増やすことは、全然ラクになることじゃなかった
衞藤 > そこから休みはしっかり取れるようになったので、次は「残業を減らそう」としたのが翌年の取り組みです。
田口 > 残業を減らすことって難しくなかったですか?
衞藤 > そうなんです。休みを取るシステムはできあがっていたけど、実際のところ休みをとること自体が負担になっていたんです。
田口 > 休みを取っても、業務が減るわけじゃないですもんね。
衞藤 > そのとおりで、単に休みを取っても業務が圧迫されるだけなんです。税理士の先生にも、「休みを増やしたはいいけどそれで逆に負荷がかかっていませんか?」と指摘を受けました。
そこでハッとしたんです。単純に休みを増やして労働時間を減らしても意味がないということに。それから「じゃあ工程会議をしよう」とか、「一週間の予定を決めよう」とか、制作方法自体を見直して、確立していかなければならないという話になりました。
誰かに仕える「仕事」から自分事「私事」へ
田口 > どのような解決策があったのですか?
衞藤 > 実は当時、業務に対する考え方の違いからかスタッフが次々と辞めていった時期があったんです。でも残ったスタッフ同士、チームとしての団結力は非常に強かったので、一気に何人か辞めていったあとも、少ない人数でそれまでと同じ内容の仕事ができた年だったんですね。
田口 > 同じ量の仕事があったのに、少ない人数でなぜうまくいったんですか?
衞藤 > 多分みんなが隠し持っていた本来の能力を発揮し始めたのが大きいですね(笑)
田口 > 生産性が上がったんですね。
衞藤 > 制作するだけじゃなくて、業務を効率化させるにはどうすればいいかということを各自が考え出始めたんです。人が辞めたことによって、どうやったら今まで以上に効率的にモノづくりができるかということが、身をもってわかった年であったと思います。
多分それまで、シゴトは「仕事」だったんだと思います。要するに、誰かに仕える事。自分事じゃなかったんですよ。それを自分のこと=「私事」として、皆が本気で取り組み始めた転換期でもあったと思います。
当時は年間の休みをどんどん増やしていっていましたし、残業時間もまだ40時間くらいで多かったんですが、それがどんどん減っていって、今年からはどんなに多くても月20時間以上はしなくても済むようになりました。
なぜ、いまリモートワークなのか
田口 > 残業もほぼなく、働き方としてはこれ以上なく整っているように感じるんですが、さらにリモートワークを取り入れようと思ったのはなぜなんですか?
衞藤 > アールでは会社のミッションとして「マーケティングを通じてローカル企業の役に立っていこう」というテーマがあります。これを実現するとなると、正直仕事だけの時間では追いつかない部分が出てきました。
要するに、仕事とプライベートの時間が乖離(かいり)していると、なかなかスキルを上げたりとか、いろんな分野の興味関心を深めることができないので、この分離をなくしたいなと。だから最終的には「好きなこと」が仕事となり、「好きなことで稼ぐ」という働き方(考え方)にしていきたいなと思っているんです。
そのためには、会社にずっといるという行為はプラスにはならないだろうなと。通勤にかかる時間ももちろんのことですが。
田口 > 通勤時間をカットできることが一番大きなメリットのような気がします。
衞藤 > そうですよね。弊社には通勤に1時間かけて来るスタッフもいるんです。特に女性だと支度に時間がかかるので、実際はそれ以上かかっていると思います。
あと冒頭でお話したように、時間に捕らわれるという感じが個人的にイヤで、もっと自由な働き方でいいんじゃないかな?ってずっと思っていたんですよね。
ただ、労働基準法に当てはめると、何時から何時まで働いて、休みは何日間で、週何時間働く、という考え方なんですよ。仕事をその時間内に収めていこうとすると、自由といっても可能なことが限られてきます。
そうした漠然とした課題を抱えた中で、会社としてできる範囲で最大限柔軟に働ける方法とは何か?を日々考えていたんです。あれやこれや考えているうちに「リモートワーク」を取り入れるという手もあるなと、思えるようになってきました。
でも実は本格的にこのリモートワークに取り組んだ方がいいなと思ったきっかけは、弊社で働いている子育て中の女性スタッフの存在だったんです。彼女はライティングの仕事をしているんですが、こんな優秀な人たちが子育てをしながら、思うように働けていない世の中っていうのはすごい機会損失だし、もったいないことだと常々思っていました。
「こうした人たちが活躍できる場を自分たちで作りたい」という思いもあり、子どもの体調不良や学校行事にもある程度自由に対応できるリモートワークの導入を本気で考えはじめました。
田口 > 未婚の女性のスタッフの方もいらっしゃいますが、このようなフレキシブルな働き方を選べれば、今後結婚出産を経ても、壁を感じることなく働き続けることができそうですね。
順を追って、体制を整えてからこそ導入できたリモートワーク
田口 > 実際にリモートワークを始めるまでに、どのような下地作りがあったのでしょうか。
衞藤 > リモートワークを実現するために、まずはチャットワークなどのコミュニケーションツールを使って、在宅でも障害なく外部との仕事を進められる環境づくりの構築をおこないました。
チャットワークを導入するまでは、クライアント企業とのやりとりは電話がメインでしたが、最近では一日にかかってくる電話が0件という日もあります。
田口 > クライアントさんもちょうど、そのようなチャットツールを導入する時期だったんですか?
衞藤 > いえ、こちらからお願いしてチャットツールを導入してもらったんです。今お付き合いがあるお客さんには、ほぼ導入して頂いています。
皆さん弊社とのやり取り以外にも、チャットワークを社内コミュニケーションツールとして活用しはじめたりと使い始めれば結構、積極的に利用されています。
弊社としては、このようなITを活用した新しいコミュニケーションツールをご紹介できるうえに、こちらの業務効率もあがりますのですごく助かっています。
田口 > これだけのみなさんが入ってくださっていたら、すごく助かりますよね。
衞藤 > しかも各クライアントグループにはうちのスタッフ全員がメンバーとして入っているので、もし誰かが不在でも、スタッフみんなで対応できるという安心感もあります。
リモートワークに踏み切る以前に、こうしたチャットツールの導入や運用を、約2年くらいかけて行ってきました。
田口 > タイムカードというのはあるのですか?
衞藤 > 去年からクラウドでの勤怠管理を使っていて、自己申告で入力しています。
また、数年前からリモートワーク導入を見据えていたので、会社的には「どんどんクラウド化を進めよう」と、制作データも全てクラウド化しています。クラウド化するまでデータは社内にあったので、そこにアクセスしないと仕事が出来ませんでしたが、今ではどこからでもアクセス可能です。これも2年くらいから徐々にクラウド化を進めながら、どうなるかを試していました。
結果的に、クラウド化してからは社内データの方はほぼほぼ使わなくなっていき、自然にクラウド環境へと移行できたように思います。こうした環境・体制づくりがなければリモートワークは実現できませんでしたね。
田口 > やっぱり体制が整ってからこそのリモートワークですね。
衞藤 > もちろんです。突然思い立ったのではなく、「いつかこういう働き方をしよう」ということを見据えていたので、順を追ってやってきましたから。
非効率に長く働くくらいなら、効率的に短く働こう
衞藤 > 今回、在宅可能なリモートワークを設けることだけでなく、1日8時間だった労働時間を7時間勤務に短縮したことも、18期の新しい取り組みです。
労働時間を短くするということは、それなりにハードルが高いことではあるのですが、例えば非生産的な案件があったとしたら、それはクライアント企業に対してもう少し交渉できないかな?など、案件ごとの進行を工夫するとか、7時間勤務を導入したことで、いい気づきもたくさん生まれています。
労働基準法では1週間の労働は40時間までと定められているので、1日最大8時間という設定の企業が多いんですよね。しかしその8時間って勤務時間も戦後の製造業をベースに定められたみたいです。もし非効率に働いたとしたら?結局時間という概念は何なのか?という疑問にたどり着きます。
例えば休日にふとアイディアが浮かんでそれをまとめてしまっている時間、これって仕事?ってなりますよね。
なので、ぼくらは労働を時間ではなく、成果物の内容で価値を定めたいと考えています。そのため、成果物や制作したモノの成果を可視化する必要がありますし、そこは会社を運営する側としては様々なツールを利活用したり、そうしたツール開発に取り組んでいきたいと思っています。
また、企業である以上労働時間の管理は絶対必要ですが、最終的に仕事とプライベートを切り分けた「ライフワークバランス」ではなく、最終的には仕事とプライベートを分けることなく、寝ている時間以外はすべて仕事であり趣味であるという考え方「ワークアズライフ」へと昇華していきたいですね。こうした流れが一般化していけば、近い将来労働基準法も進化せざるおえなくなるのではないでしょうか?
出社日は週1回。あとは、どこで仕事をするか個人の自由です
田口 > では、リモートワークの具体的な仕組みを教えてください。
衞藤 > リモートワークで決められることは、「朝6時から20時までの間に7時間働いてください」ということです。パートスタッフの場合だったら、4.5時間です。
田口 > それを月に何日間取り入れているんですか?
衞藤 > スタッフ全員が必ず出社する日は金曜日だけで、あとは個々の自由です。
田口 > そんなにたっぷり!? 少なくとも週1日だけ出ればいいんですか?
衞藤 > ちなみに今まで通勤に時間がかかっていたスタッフは、もう毎日リモートワークを選択しています。
田口 > これは自分で決められるんですか?
衞藤 > そうです。会社に来たければ、来ればいいだけですし、スタッフ全員でGoogleカレンダーを活用して勤務形態を共有できる環境を作っているので、「明日は出社しません」とかいちいち報告する手間もないです。
田口 > 試験的な導入と伺っていたので、在宅するのは週1回くらいの頻度かと思っていました。こんなにたくさんの日数を取り入れているとは驚きました。勤務形態の申請は月単位でするんですか?
衞藤 > 申請というか、スタッフ共有のカレンダーに入れておいて、という自由な感じです。
もし家族と同居していて、「どうしても家では集中できない」となれば、会社に来ればいいだけの話ですし、「リモートワークは家で」とは限らないですからね。カフェでもシェアオフィスでも自分の居心地のよい環境を探せればどこでもいいと思います。
「在宅勤務手当」を出す意味とは
衞藤 > もうひとつ、変わった取り組みであると思いますが、リモートワークの導入をきっかけに在宅勤務手当を出すことにしました。
田口 > 在宅ワークができることだけでもメリットなのに、さらに手当まで出しているんですか?
衞藤 > これはアールの特徴なんですけどまず何かを行う前に、スタッフ全員に一度想いを吐き出してもらうんです。
今回はリモートワークを取り入れるにあたり、その前に不安になること、障害になること、気になることなどあれば、積極的に言って欲しい。ということをスタッフに事前に伝えていたんです。
そうしたら、電気代や消耗品など、会社にいるよりコストがかかることが気になるという声があがったので、その分は手当を出そうということになりました。
でもこれを社労士さんに伝えたら、かなり驚かれましたけどね。それくらいは自分で面倒を見させるべきだと(笑)
田口 > たしかに。手当というのは、月に在宅勤務をした日数分ですか?
衞藤 > いえ、在宅勤務をしようがしまいが月額で一律でつけてます。こうすると、一般的にはどっちが得か?みたいな考えになりがちですが、スタッフみんなには、全員に平等に対応するのは難しいので、個々に最適化させてほしいということを伝えています。
例えば「あの人はやっていないのに」のように、公平感ばかりを尊重すると、それを指摘された人は肩身がせまくなり、社内で何も発言できなくなりますよね。だから、〇〇さんだけズルいとか、そういうのはやめましょうと。
これらはすべて、スタッフみんなに最高のパフォーマンスを出してもらいたいとの想いと、スポーツでいう自主練もしっかり充実させて、できればそれを会社にフィードバックしてほしいし、各自が自分たちのスキルを高めることで、それぞれが個々で立てた目標をしっかりと達成してもらいたいとの想いがあるからです。
あなたが活躍できればチームも強くなるし、チームで成功すればあなたのスキルも自然と上って、あなたの夢にも近づけますよ、ということなのですが、、
OKR達成のために
衞藤 > 実は再来年、弊社は20期を迎えるのですが、20周年に向けて会社のOKRと個人のOKRを並走させ、個々の得意な分野を活かした部門を立ち上げ更に深掘りしたいと考えています。最終的にはグループ会社として独立出来るレベルになればいいとも思っています。
スタッフは素晴らしいメンバーがそろっている。けどこの人たちがもっと個々の能力を発揮して、いきいきと仕事(私事)に取り組み、組織としても成長できる仕組みってどんなだろう?各自が個人的に本当にやりたいことって何なんなのかな?夢や目標ってあるのかな?もしあるのであれば、会社の成長とともに個人の夢や目標も達成出来ないかな?そんなことを考えはじめたんです。
そうした中、GoogleやFacebookなどが積極的に取り組んでいる、OKR(Objectives and Key Results)という目標達成のフレームワークと出会い、チームや個人の目標を明確化するために、各自で取り組んでみようということになりました。
会社組織としてのミッションは既に決まっている。では、あなたがこの組織で実現したいこととは何か?ということを、OKRのフレームワークに添ってこの数カ月各自で徹底的に考え、そこで明確化した自分自身の目標を会社の成長とともに実現させていきましょうと、20周年に向けてまず一歩を踏み出したところです。
田口 > なるほど、OKRを活用して「仕事」が=自己実現のための「私事」になるように目標設定したんですね。
リモートワークでわかった、コミュニケーションの大切さ
田口 > 実際にリモートワークを始めてみて2週間ほど経っていますが、何か困ったこととか出てきていませんか?
衞藤 > 特にはないですが、やっぱりコミュニケーションの大切さというのはわかってきました。
今まで社内にいたときは、ちょっとしたことでも話が耳に入ってきたので、「どうしたの?」と声をかけることもできました。でも、社内で顔を合わせないようになると、この「ちょっとした会話」すら耳に入らなくなるわけです。
ここで行き違いが起こらないように、対策として全員が参加するグループチャットを作りました。チャットをチェックする・しないは個人の自由ですが、いままでオフィスにいたときに自然と耳に入ってきていた会話が、チャット上で行われるような場所を作っています。
そうしたことも含め、半年間はテスト段階なので、いろいろやってみて全員が揃う金曜日に修正をかけてこうと話し合っています。
究極はオンとオフの区別をなくしたいんです
衞藤 > アールは企業理念として「Creating Happiness(幸せの創造)」を掲げているのですが、ここで言う幸せとは小さな幸せの積み重ねであり、そうした小さな幸せがなければ、大きな幸せには辿りつかないんじゃないかと思っているんです。
クライアントであるローカル企業を幸せにするには、まず自分たちが幸せになることが必要です。リモートワーク可能なうちの会社に所属していることに、ささやかな幸せを感じるようにしていかないと、最終的な企業理念は達成出来ないと思っていて、リモートワークはそうした取り組みの一環でもあります。
先のことはわからないけど「いまはどんどんいろんなことをやってみよう」という時期なので、この前スタッフにも「もっともっと遊びましょう!」と言ったんです。遊ばないと良いことも悪いこともジャッジできないと思いますし、できればスタッフ共有のカレンダーに遊びの予定も気軽に入れられるようになるのが理想ですね。本人がリモートワークの時間をどのように使おうと自由ですから。
田口 > そうなると。単純に休みの日と仕事の日の区別がつきにくそうな、イメージもあるんですが…
衞藤 > 究極はオンとオフをなくしたいんです。結局「仕事に行かなきゃ」とか、会社の中の自分を作り上げればあげるほど、自分の人生で求めている本来の自分像と乖離していく気がするんです。だから、会社勤めの人からはよく「仕事だから仕方がない」という言葉が出てくるし、ぼくはこれをなくしたいんですよね。
最初にお話ししたように、ぼくはサラリーマン時代に激務でプライベートを犠牲にした生活を経験してきたので、経営者として絶対にそんな会社にはしたくないということを、ずっと心に思ってきました。そもそもの原点はそこかもしれないですね。
根っこの部分で、スタッフを信用しているからこそ踏み切れました
衞藤 > とはいえ今回リモートワークを導入できると確信したのは、やはり根っこの部分で、ぼく含め、スタッフみんながお互いを信用できてるからだと思います。お互いにどれだけ信頼関係を築けるかは大きいです。
あるスタッフは、「自宅で仕事をする方がより監視されてる感じがある」と言っていました。責任感が強くなるというか。
田口 > 家で仕事をするほうが、より緊張感や責任感を感じるということですね。誰もまわりにいないからこそなおさら。
衞藤 > 見えないだけ気は配らないといけないとか、会社の皆と離れているだけに、自分のなかで、より一日の業務を組み立てて仕事をしなければなりません。ある意味集中力も試されるので、それはいい面ですよね。
リモートワークを導入するにあたり社労士さんにも相談したのですが、まず言われたのが「サボっているときどうするんですか?」ということです。
でもぼくはサボってもいいと思ってますし、サボり続けていたら辻褄は合わなくなるでしょう。それにそれで給与をもらうことに耐えられる人なら、うちでは働かないと思いますし。
やはりこれも信頼関係であって、OKRを通じて個人個人の目標をみんなで共有しているからこそ機能するんだと思います。
田口 > その信頼関係があったからこそ、今回のスタートに踏み切れたんですね。
衞藤 > まだテスト段階ですけどね。でも、やっぱり根っこの部分の目標を共有しているということが一番大きいです。これがないとたぶん空中分解してしまうのではないかと思います。
結局、リモートワークや7時間勤務というのは、会社と個人の目的達成のための手段なんです。誰も「やった!サボれる!」とは思っていませんし、遊びをうまく仕事の中に取り入れることで、究極的に行き着く先は「誰かの役に立ちたい」という非常にシンプルなところなのではないのかな?と、そんなことも会社のみんなで話しています。
業種によってリモートワークを取り入れやすい、取り入れにくいは当然あると思いますが、これもいろんな意味での文化だと思うので、新しい働き方を求めている人には、大分にもこのような会社があるということを是非知ってもらえるとうれしいですね。